【海外渡航レポート】ベルギーimecで最先端の光電融合研究に挑んだ村椿さんに聞く
半導体人材育成支援基金の海外渡航助成制度を活用し、北海道大学 情報科学院 博士後期課程3年の村椿太一さんが、最先端のナノエレクトロニクス研究機関であるimec(ベルギー)を訪問しました。滞在中は、光電融合分野における重要デバイスであるグレーティングカプラ(GC)の設計研究に取り組み、同研究室とimecとの共同研究体制の強化に貢献しました。村椿さんに直接お話をお伺いしました。

インタビューに答える村椿さん
| 所属・氏名 | 北海道大学 大学院 情報科学院 情報科学専攻 メディアネットワークコース 情報通信フォトニクス研究室 博士後期課程3年 村椿 太一 |
| 渡航先 | imec(Interuniversity Microelectronics Centre)@ベルギー・ルーヴェン |
| 渡航期間 | 2025/9/1~11/22 |
imecへの渡航を決めた理由を教えてください。
imecは、研究を始めた頃から憧れの存在でした。私の研究領域でもある光回路の分野において、本当に素晴らしい論文を初期の頃から出されていますし、光回路の製造装置を持っていて実際に回路を作って動かしているところにすごく意義があると感じています。私の研究室では、デバイスの設計やシミュレーションは行っているのですが、それらを作製するというのはハードルが高いです。やはり自分たちで作れる装置をもっていて、その調整なども多岐にわたる中で、きちんと機能する光回路を作っているところがすごいと思っています。今までimecは遠い憧れの存在でしたが、今回こういった機会をいただけたので、挑戦して爪痕を残したい、imecや私の研究室の双方に貢献したい、という思いで渡航を決意しました。
そういった強い思いのある方に、今回の渡航助成制度を活用いただけて嬉しく思います。村椿さんや、所属する研究室では、普段から光回路に関する研究をされているのですか。
はい。光回路は、現在“光電融合”というキーワードで注目が高まっています。AIや動画配信サービスが普及するなかで、それらのサービスの処理を担うデータセンターでは、消費電力の増大という問題に対処しつつ、コンピューター自体の性能も良くしていかなくてはならない、という状況にあります。そこで、光回路が注目されています。今までは電気でコンピューターなどの電子機器を動かしていたのですが、光を使うことでより効率的に性能を高められるため、コンピューターの中に光回路を組み込むという発想があり、それを光電融合と呼んでいます。

imecで共に研究を行ったグループメンバーと
渡航先でも光回路や光電融合といったテーマについて研究をされていたのですか。
はい。光回路の一部のデバイスである「グレーティングカプラの設計」について研究を行いました。光電融合においてグレーティングカプラ(以下、GC)とは、「コンピューターやネットワーク機器の間といった比較的長距離の伝送路である光ファイバー」と「コンピューター内部の短距離の伝送路であるシリコン光集積回路」を接続するためのデバイスです。光ファイバー(垂直方向に進行)とシリコン光集積回路(水平方向に進行)は光の進行方向が異なるので、それを効率よく接続する必要があります。GCは、周期的に並ぶ格子状の構造(グレーティング)を活用して光の進行方向を変えるデバイスで、光結合を担う非常に重要なものです。私の所属する研究室ではこれまで研究実績が少なかったのですが、imecでは基礎的な研究から発展的な研究まで進めることができました。

グレーティングカプラの役割
私たちの生活にも密接に関わる非常に重要な研究テーマなのですね。渡航された3か月間はどのように過ごされていたのですか。
9月に渡航したのですが、まず光シミュレーションソフトの使い方の勉強や、比較的原理がシンプルな1次元グレーティングカプラ(以下、1D-GC)の設計・改良を通して、GC基礎理論を学ぶことからスタートしました。加えて、実験結果の解析を通した作製回路の品質評価も行いました。10月に入ると最先端GC設計技術の勉強や論文の追計算、11月には2次元グレーティングカプラ(2D-GC)の設計を行いました。適宜、研究グループ内で進捗の報告をし、もらったフィードバックを研究に役立てていました。

滞在中のスケジュール
研究グループの方と連携しながら研究を進められたのですね。
はい。imecの方は皆さん友好的で、慣れない環境で不安な私に優しく声をかけてくれるなど、温かく受け入れてくれました。imecでは従業員の方だけでなく、修士、博士の学生も世界中から集まって一緒に研究しています。似たような研究を行う同世代の学生と、研究やお互いの国の文化について話すことができたので、大いに刺激を受けていました。また、imecの方々は普段から挨拶などのコミュニケーションを積極的に取っており、インターン生であってもチームとして受け入れられている感覚(embraced)がありました。imecのミッション「Embracing a better life (より良い生活を抱きしめる)」は、メンバーに深く浸透しているんだなと感じました。私の研究に対しても、すごくポジティブに受け止めてくださったのが心地よかったです。慣れない環境の中で苦労することもありましたが、安心して進めることができました。
研究内容について具体的に教えてください。
今回の渡航では、2つの研究を進めていました。
1つ目は「製造誤差耐性を高めた1D-GCの設計」です。先ほどお話ししたように、GCでは同じ構造が周期的に繰り返されて格子状の構造を形成するのですが、このなかで一部分だけ構造のサイズや形状が変わってしまうだけでも、性能に大きく影響を与えてしまう可能性があります。これは、ドミノ倒しで例えると”等間隔に並べないと途中で途切れてしまう”ように、グレーティングの構造も全く同じ構造がきれいに並んでいないと、機能しなくなってしまうためです。この研究では、誤差の中でも特に生じやすいグレーティングの歯の幅変化に対して、高い耐性を有する構造を設計・提案しました。つまり、「多少出来上がりにばらつきがあっても性能が落ちにくい、丈夫な仕組みのグレーティング」を考え出したということです。
2つ目は「2D-GCの設計」です。光ファイバーを伝搬する光は基本的に2つの偏波が混じっているのですが、偏波とは“光がどちら向きに揺れているか”の違いのことです。たとえて言えば、縄跳びを縦に揺らすか横に揺らすかのように、光にも2つの揺れ方があり、光ファイバーの中ではこの2つが同時に含まれています。しかし、1D-GCは偏波依存性が高く、特定の向きの偏波のみを上手く結合できても、その直交成分は上手く結合しません。そこでファイバー中での偏波の状態によらず、シリコン回路へ高効率に光結合可能な高性能2D-GCが必要となります。
この研究では、1D-GCの設計で注目を集めている設計手法であり、単位構造から全体構造を設計する「共振ベースの設計」について、構造の解析手法・設計手法の構築を行いました。これは、小さな“部品”一つひとつの性質を丁寧に調べ、その組み合わせで最終的な性能を高めていく方法で、複雑な構造でも効率よく優れた設計ができるのが特徴です。

1次元GCと2次元GCの比較
わずか3か月の滞在で2つの研究を進めるというのは、かなり精力的な活動ですね。
ありがとうございます。特に2つ目の研究に取り組めたのは1か月程度と短く、6~7割程度の進捗ではあるのですが、imecの方々にとってもほぼゼロからのスタートという状況の中で、非常に素晴らしい進捗であると大変高い評価をいただきました。引き続き、共同で研究を続けると約束もいただけましたし、今後も私の所属する研究室から派遣する学生は歓迎してくださるとのことで、当初の目標であった「情報通信フォトニクス研究室とimecとの研究協力体制の強化」につなげられたと思います。
今後もimecとの研究は継続されるのですか。
はい。現在、私の後輩が研究を継続してくれていて、とても精力的に取り組んでくれています。今後も研究協力体制を発展させてくれると思っています。私の研究室が得意とするところは、回路の設計やシミュレーションに関する部分なので、光回路を作ることに強みのあるimecと連携することで、高い相乗効果を生み出せると考えています。
継続的な視点も持って制度を活用いただけて、大変嬉しく思います。村椿さんご自身として、今回の渡航で、得たことや学んだことはありますか。
はい。非常に多くの学びを得ることができました。
大きく3つあるのですが、1つ目はコミュニケーションスキルです。研究を進めるにあたっては慣れない英語を使いながら、共同研究者と研究スケジュールや専門技術に関して議論を行ったり、合意形成を行ったりする必要があり、その過程でコミュニケーションスキルが磨かれたと思います。
2つ目はチームマネジメントスキルです。imecには世界各国から研究者が集まっており、それぞれ母語や文化が異なる中で、どのようにしてチームワークを形成するのかを学びました。特に、定期的に顔を合わせてミーティングすることや、各個人の能力は不完全であることを前提として、お互いに補い合う、助け合うことを重視していることが印象的でした。
最後にワークライフバランスです。imecの方々は仕事の質だけではなく、生活の質を向上させることも心掛けているようでした。プライベートの充実も仕事の一環として捉えるということや、短い時間の中でいかにより良い成果を出すかに注力する姿勢はとても勉強になりました。

博士学生と交流を深めた楽しいひと時
研究だけでなく、多様な方々との関わりの中で非常にたくさんの学びがあったのですね。日本を出ることで得た気づきがとても多かったことが伝わってきました。
これまでの渡航は国際学会の参加と短期滞在でしたし、事前に一通り準備できるものでした。それと比べると、今回の渡航は現地での関わりの多さや、その場での臨機応変で柔軟な対応など、遥かに難易度が高かったです。
英語や異文化という非常にタフな環境の中、無事にやり遂げられたことで自信にもつながったのではないでしょうか。
はい。最後にimecの方から「あなたの熱意、プロ意識、一生懸命な姿勢は本当に素晴らしかった。imecにぜひ社員として来てほしいくらいだ」と大変嬉しいお言葉を頂くことができました。こうした高い評価は客観的な実力の証明となり、これまでとは比べ物にならないほど確かな自信を得ることができました。
今後の抱負はありますか。
世界を舞台に勝負し、一番を目指したいという思いがより強くなりました。就職後も世界を舞台として日本の半導体業界の発展に貢献したいです。まずは、修了までの残り僅かな期間をimecで行った研究を続けて、完成させたいと思っています。また、異文化交流で得た喜びや困難の経験を自分自身の成長の糧とし、日々の振舞いに反映させていきたいです。
最後に、半導体人材育成支援基金の支援者の方へメッセージをお願いします。
この度は、貴重な派遣機会と資金のご助成に深く感謝いたします。今回の渡航を通じ、北海道大学とimecとの間で極めて強固な協力基盤が構築されました。この交流を単発で終わらせるのではなく、研究室の後輩に継承していき、人的ネットワークの定着、および世界水準の研究能力を研究室に還元することは、北海道大学の研究成果を最大化させる上で極めて意義深いものと考えております。ぜひ、継続的なご支援をいただけますと幸いです。

研究の発展への想いを語られる村椿さん
村椿さん、本日はありがとうございました。
この海外渡航は、半導体人材育成支援基金の海外渡航助成制度を活用して実現しました。ご賛同いただける皆様からのご支援をお待ちしております。